高台から、眼下の海と、その海を抱くように連なる山を眺める。
夕暮れ時。
薄墨を流したよう。
海の青も、
空の紺も、
山の緑も、
全ての色は曖昧になって、その境界を失う。
視界の全ては、淡く、ぼんやりとする。
山と海に挟まれて伸びる国道も、もはや視力で捉える事は難しい。
まばらに行き交う車は、うっすらと、かすかに、小さく、小さく見えるだけ。
そんな薄闇の視界に。
浮かび上がるテールランプの灯。
赤い灯火は視界の隅に急に現れ、ゆっくりと流れて、小さくなって、消える。
赤い灯火のひとつひとつが、
人間のこころのようだ。
わたしのこころのようだ。
喜悦。悲哀。憤怒。嫉妬。怠惰。傲慢。虚栄。偽善。優しさ。
どれもこれも、とても不確かで、心許ない。
視界の隅に現れた灯火は、やがて消えていく。
それが万物の理であるかのように。
意図せずとも。望まずとも。
そして、また視界の隅に、突然現れる。
制御不能な感情の渦のように。
予期せずとも。望まずとも。
「もしあなたが私のことを分かっていると言ったとしても、それはあなたが私の灯火のかけらだけを見ているのかも知れません。殆どが薄墨で消された視界の中で」
空に目を遣ると、天空に瞬く北極星。
それは、なんと対極的な、絶対的な光か。
いつもそこにあること。
それは、不確かな世界では、何か神聖なもののように思える。
ただそこにあること。
いつも変わらずあり続けること。
それは、とても得難く、有り難いことだ。
しかし。
不確かで心許ない灯火でも。
やがては消える灯火でも。
時には激しく瞬いて、闇夜を照らすこともある。
一度は消えても、再びその光を取り戻すことができる。
「もしあなたが私の灯火だけを見ていたとしても、あなたが私を見ているということに、変わりはありません」
「もし私があなたを見失ったとしても、私はあなたを探し続けるでしょう。心許ない灯火の瞬きを頼りに」
「たとえ同じ色の灯火が無数に瞬いたとしても、わたしはあなたの灯火を見つけ、あなたに辿り着くことが出来るでしょう」